動物が生まれた直後に特定の対象を親として認識する「刷り込み(インプリンティング)」現象は、コンラート・ローレンツによって詳しく研究されました。この実験は、生物の学習のメカニズムを解明するうえで重要な研究の一つです。
ローレンツとは?
コンラート・ローレンツ(Konrad Lorenz)はオーストリアの動物行動学者で、「比較行動学」の父と呼ばれる存在です。彼は動物の本能的な行動や学習の仕組みを研究し、特に「刷り込み」という現象を発見しました。
刷り込み実験の概要
ローレンツは、生まれたばかりのガチョウのヒナを用いた実験を行いました。
- ヒナを2つのグループに分ける
- 一方のグループは、孵化後すぐに実の母ガチョウを見る環境に置く。
- もう一方のグループは、孵化後すぐにローレンツ自身が目の前にいる環境に置く。
- ヒナが最初に見た動くものを親と認識する
- 母ガチョウを見たグループのヒナは、母ガチョウの後を追いかける。
- ローレンツを最初に見たグループのヒナは、ローレンツを親と認識し、彼の後をついて歩くようになった。
- 刷り込みは一定の時間内でのみ起こる
- ローレンツの研究によると、ヒナが孵化してから数時間以内(臨界期)に経験した対象に対して刷り込みが起こる。
- 臨界期を過ぎると、刷り込みは発生しない。

実験の意義
ローレンツの実験は、学習の仕組みや動物の行動の発達に関して重要な知見をもたらしました。
- 本能と学習の関係の解明
- 刷り込みは本能的な行動であり、学習とは異なる側面を持つ。
- 一度刷り込みが起こると、修正するのが難しい。
- 臨界期の概念の発見
- 刷り込みは、生まれてすぐの「臨界期」と呼ばれる短い期間にのみ起こる。
- これは人間の言語習得など、他の学習過程とも関連している可能性がある。
- 動物行動学の発展
- ローレンツの研究は動物行動学の基礎を築き、その後の多くの研究に影響を与えた。
現代への応用
ローレンツの刷り込みの研究は、現代でもさまざまな分野で応用されています。
- ペットのしつけ
- 生後すぐの犬や猫が人間に慣れるようにする「社会化期」の重要性が認識されている。
- 人間の発達研究
- 幼児期の愛着形成や、言語習得の研究において「臨界期」の概念が応用されている。
- 人工飼育の技術
- 絶滅危惧種の動物を人工的に育てる際に、適切な刷り込みを行うことで野生復帰の成功率を高める。

まとめ
ローレンツの刷り込み実験は、動物の学習メカニズムを解明する重要な研究でした。生まれた直後の動物が最初に見た対象を親と認識するこの現象は、本能と学習の関係を理解するうえで不可欠な概念です。現在でも、動物行動学や人間の発達研究において、ローレンツの研究は大きな影響を与え続けています。
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